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名古屋高等裁判所 昭和24年(控)869号 判決

被告人

石垣国一

外一名

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人西村美樹外二名控訴趣意第一点について。

原判決によれば、原審は(中略)被告人両名が共同して昭和二十三年十月中旬、松阪市在住の一般中小商工業者に対し、今度松阪税務署の為した所得税の仮更正決定は全く出鱈目で不公平である。あまりにも予想とかけ離れた決定書を手にして戸惑している者が沢山あると思う此度私達の発起で松阪市中小商工業者納税同盟を結成することにした、私達の同盟はすぐ異議の申立を行い確実な資料を蒐集して收支計算書をつくり来年の本決定に備えると呼かけ多数の賛同者を得て松阪納税同盟を結成し、被告人石垣は同盟の幹事長となり被告人中西は同盟の書記として昭和二十三年十月中旬以降昭和二十四年一月頃迄の間継続して被告人両名は相通じて松阪市大字松阪西町被告人石垣方に納税相談所を、同市愛宕町に納税同盟事務所を設け同盟加入者より若干の会費を徴收し、右両所等において三田勘七外多数の納税者に対し、或いは直接に或いは納税同盟の事務員を通じて前記仮更正決定に対する審査請求に関し、審査請求書(証第三号)品目別利益調査表(証第五号)並に委任状(証第六号)の諸用紙を印刷して之を頒布し、之が記入方法につき必要な指示を為し説明も与え同盟員等百数十名許りの仮更正決定に対する審査請求書を同盟の名にて取纏めて之を松阪税務署に提出し、次で昭和二十三年度の確定申告をなすに当り確定申告について松阪納税同盟幹事会と題する確定申告に関する六項目に亘る税務の説明指示事項等を記載した印刷物を多数の同盟員に頒布する等の方法により納税事務の説明、指示若くは相談に与り以て税務代理業を行つたものであるが、右は大蔵大臣の許可を得ずして為したものであるとの事実を認定したものであるが、右原審挙示の証拠によればその判示事実はこれを認められぬことはない。而して税務代理士法違反の罪は同法第一條所定の行為を大蔵大臣の許可なくして業とすることによつて成立し本来多数の行為が反覆して行わるべきことが予想されている包括的な犯罪であるから、その判示に当つても各個独立の多数の犯罪行為を判示する場合と同一なることを要せず包括的にこれを表示し以て当該犯罪行為を認め得る程度で足りるもとの解すべく従つて原審が「或いは直接に或いは納税同盟の事務員を通じて」と判示したことは包括一罪の場合の判示としてはその事実が確定されていないとはいえない。又原審の事実判示は右に明かなように単に「印刷物の頒布と指示、説明、提出」とのみ判示しているのではなく、その全判文を通読すればその措辞は粗雑との譏を免れないにしても結局被告人等は共謀の上昭和二十三年十月中旬松阪市在住の一般中小商工業者に対し、松阪税務署の課税の不当を鳴らしその異議申立に助力すべき旨を呼びかけて多数の賛同者を得て松阪納税同盟を結成し夫々その役員に就任し、同年度所得税の仮更正決定に対する審査請求について多数の同盟加入者に印刷した諸用紙を頒布し、その記入方法等の指示、説明をなし又審査請求書を取纏めて提出し、更に同年度所得税の確定申告について多数の同盟加入者に確定申告に関する六項目に亘る税務の説明、指示事項等を記載した印刷物を頒布する等の方法を以て納税事務の説明、指示若しくは相談に与つたというにあつて、その挙示の証拠と相俟つて単に税法の一般的の疑義の税務代理士法第一條の租税に関し、他人の委嘱により審査請求その他の事項の相談に応ずることを業としたとの事実についての判示は具備しているものといえるから従つて論旨は採用し難い。

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